仔犬のワルツ 今村元気 ボーイズラブ文庫
司野の指が、自在に僕の口の中を突いたり|撫《な》でたりする。「……たぶんな」。一瞬でも廣岡を小篠の身代わりにしようと思ったことの、バチが当たったのかもしれない。「あ、うん――ごめん、ブツブツ言って……」。悔しいが、体格が違いすぎる。同じ男に生まれるのなら、是非ともこんなふうに生まれたかった。
ピンと張った滑らかな皮膚の下の肩胛骨や、ゴツゴツした背骨の一つ一つは、確かな存在感を僕の指先に伝えた。恐る恐る名前を呼ぶと、志方が低い声で唸った。
「……は……っ」。「パンを食べさせてあげないんだろうとか?」。怒らないほうがどうかしている。「うっ、……うううっ。宝……」。偽善者だ。あのキスといい……この手のからかい方をするのは、悪趣味ではないだろうか。三匹目を切り伏せたところで、ハーコンは脚に激痛を感じた。
心の中では必死にそう叫んでいるのに、千秋の身体はぴくりとも動かなかった。
不意に悪戯心がわき起こった香澄は、彼の眉間にちゅっと唇を押しつけた。正体なく眠っていたはずのサイファの手が、少年の手首をがっしりと掴んでいる。深い憂愁を浮かべる瞳に向かって、海は必死に訴えた。その笑顔に一見なんの含みもなさそうに見えるのが、却って僕を警戒させた。俊也が俺を受け入れてくれば」楊虎の視線と、俊也の視線が闇の中でぶつかる。足を動かす。「そっか……」。
低くつぶやく声に、もう一度うなずいた。苛立ちを隠そうともせずに、大日向は八紘をにらんだ。「黙れ」。でも……じゃあなぜ、僕は抗(あらが)わない?いくら明確な体力差があるとはいえ、抗って抗えないことはないはずだ。
ボーイズラブ小説作品紹介
退屈な日常をただ過ごしているだけの匡耶は、ある日、差出人に覚えのない手紙を受け取った。『香之原家御招待状』という文面とともに電車の切符も同封されていたそれを怪しく思いながらも、匡耶は招待を受けることにする。雪深い地に建つ香之原家の館には、美しいがどことなく嫌な感じが漂う紫織と、素直で健全な雰囲気ながらも匡耶を誘惑しようとする亜鷲が住んでいて――。
タイトル:苦い蜜の夢をみていた
著 者 名:高月まつり
レーベル:アイス文庫
発 行 元:オークラ出版
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